※本ブログは2018年5月7日にはてなブログに投稿されたものです
大一番
5月6日、日本時間24時30分にチェルシーvsリバプールの一戦がスタンフォードブリッジで行われた。同日にはエル・クラシコもあり世界のサッカーファンは、特にGW最終日で翌日から学校や仕事に戻らなければならない日本のサポーターは日程を恨み、寝不足を覚悟しただろう。
とはいえ実質的な重要度には差はあったはず。既にバルセロナが優勝を決め、レアルマドリーはCL決勝がチラついていたはずだろう。
もちろん両チームの意地と意地のぶつかり合い、世界最高峰の闘いであり、特に今季はバルサの無敗優勝がかかっている中で、単なる1試合とは明らかに一線を画していることは強調しておかなければならない。
ただこの試合の後に両チームの立ち位置が大きく変わることはない。(もっともサポーターをはじめ関係者各位は半年間の優位を楽しめるという大きな、そして最高の権利はあるが)
それと対照的に「裏大一番」となったチェルシーvsリバプールは今季の順位を大きく左右する一戦と目されていた。
今節前の段階での順位は
3位リバプール 勝点72、得失点差+41、残り2節
4位スパーズ 勝点71 得失点差+37 残り3節
5位チェルシー 勝点66 得失点差+26 残り3節
迎えた37節、スパーズに波乱が起こる。降格最右翼、最下位WBAにまさかの0-1負け。したがってチェルシーがリバプールとの直接対決を制すればスパーズとの勝点差は2、1試合消化の多いリバプールとは3差と射程圏内に捉えられる。
対してリバプールは勝てばCL圏内を確定させられる。
2つの椅子を争う3つのチーム。今後、そして来季の趨勢を占う6ポインターの様相をこの試合は呈していた。
試合前
CLとの兼ね合いから中3日のリバプールに対し中7日と十分に準備期間を設けられたホームチーム。負傷のアルバロ・モラタ以外はベストメンバーを揃えた。出場停止処分明けのマルコス・アロンソもスタメンに名を連ねた。
対するリバプールは負傷で今季終了となったアレックス=オックスレイド=チェンバレンの位置にトレント・アレクサンダー=アーノルドを配置転換し、彼の本来のポジションである右SBにはナサニエル・クラインが復帰後初の先発を果たした。そしてリバプールの代名詞となりつつあるモハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノの強力3トップも先発した。
この時点で日程、疲労面からチェルシーにやや分があったと見ることもできる。ただし勝利必須のチェルシーは前がかりになることが予想され、それこそまさにゲーゲンプレスの格好の獲物である。またCLの決勝進出もリバプールの選手のモチベーションには好影響を与えただろう。
試合前の状況は五分五分だった。
ただ
唯一気になるのは今季のチェルシーの対ビッグ6の戦績だった。シーズン序盤こそスパーズ、ユナイテッド相手に勝利を収めたが、直近の同2チームとの対戦では逆転負け。さらにマンチェスターシティにもダブルを食らうなど
ここ1番の試合でことごとく負けてきた
チェルサポの試合前の発言では「勝てる」よりも「勝つしかない」というやや後ろ向きなものが目立った。
直接対決
3位と5位の直接対決。
だけではない。
チェルシーの代名詞となった3バック。この日の相手はリバプールの代名詞となった3トップだった。
本来ビルドアップを考慮してCB1人に対して1人をぶつけることで数的同数となり簡単に運ばせない効果がある。ただチェルシーは拙いビルドアップを捨てシンプルにティポー・クルトワはロングキックを選択する場面が目立った。モラタよりも高さと強さに秀でたオリヴィエ・ジルーや長身を誇るマルコス・アロンソの頭をめがけてシンプルに当てる方を選んだ。
こうなると残る直接対決はFW対DFという構図である。
先手を取ったのはリバプールのFW陣であった。開始直後にギャリー・ケイヒルのスピード不足を突き、フィルミーノがシュートまで持ち込む。その後も前半は珍しくミスが目立ったセサル・アスピリクエタと対面したマネが強烈なシュートを枠内に放つ。
しかしここで守護神クルトワが立ちはだかる。どのシュートも的確に弾き出し先制点を与えない。
全くの余談だがここで筆者のクルトワに対する印象を語りたい。クルトワはダビド・デ・ヘアやジャンルイジ・ブッフォンのように「99%得点になる」シュートを異次元のセービングで防ぐタイプ、ではない。
ただ彼は「決まるか決まらないか五分五分」のシュートに滅法強い。ノーチャンスのシュートすら止める事もあるデ・ヘアらのようなプレーはないが、裏を返せば止めるチャンスのあるシュートは確実に止めるタイプだ。
話を戻そう。
特筆に値するのが最大の得点源であるサラーを完封したアントニオ・リュディガーである。ローマ時代の戦友でリーグ屈指の韋駄天相手にスピードで一歩も引かずに体をぶつけ続けた。結局サラーがその左足を気持ちよく振り抜く時は一度も訪れなかった。守備陣のこうした気迫が徐々にチェルシーに試合の流れを傾けはじめる。
守備で流れを引き寄せる
同じく流れを引き寄せたのがティエムエ・バカヨコの奮闘である。今季はお世辞にもいいパフォーマンスとは言えず、不用意な退場など戦犯扱いされる試合も少なくなかった。
しかしこの日は持ち前のフィジカルで中盤を制圧。試合勘の戻りきっていないクラインに猛然とプレスを仕掛けボール奪取したり、長身を投げ出したヘディングシュートでゴールを脅かした。もちろんエンゴロ・カンテの広すぎる守備範囲やカバーリング、圧倒的なインターセプトあってこそだがバカヨコも負けじと対人で無類の強さを見せた。
同じサイドのマルコスアロンソも積極的なプレーでクラインを自由にさせなかった。
エースのサラー擁する左サイド(リバプールの右サイド)でチェルシーのディフェンスが主導権を握るようになる。
左サイドで優位を取ったチェルシー。エデン・アザールを中心にオフェンスを同サイドで組み立てる回数を増やすと、右サイドが空いてくる。そこを試合の最後まで驚異的な運動量と果敢な仕掛けでヴィクター・モーゼスが突き続けた。
そして32分、その瞬間が訪れる。サイドからエリア内に侵入したモーゼスは手詰まりに見えた。しかし相手エースを彷彿とさせるふわりとした左足クロスがエリア内のジルーに届く。値千金の先制弾。ジルーはベンチ外のダビド・ルイスと共にその歓喜を味わった。
その後はとにかくスペースを埋めることに専念した。アザールのドリブルを中心にカウンターを仕掛け、守備はリトリートを徹底。
右WBモーゼスのクロスに完全に余った左WBアロンソがシュートを放つシーンに象徴されるように、チェルシーが入念に3トップ潰しを敢行したのと対照的に、リバプールには3-4-3の対策を練る時間がなかったのではないか。
闘う気持ち
スコアこそ拮抗していたが内容、特に先制後から後半、終了まではチェルシーの試合と言って良いだろう。
過密日程の中、開始直後勢いこそ見せたリバプールだったが終盤の慣れないクロス攻勢では可能性を見出せなかった。
ジョゼ・モウリーニョ同様コンテもポゼッションを放棄した。押し込まれようが回されようが関係ない。スペースを埋め足元に入ったところを刈り取る戦い方がハマった。選手間の距離を開けさせ、少し甘いパスが出ようものならカンテが全てインターセプトした。
今季気になったのはリードしている時の試合の進め方、終わらせ方だ。エミレーツのアーセナル戦、エクトル・ベジェリンに後半ATに同点ゴールを決められてからチームは試合の殺し方を忘れてしまったかのようだった。
先制しても追いつかれ、そして逆転される。いつしかカンテの孤軍奮闘ばかりが目立つチームになってしまった。
しかしこの日のチェルシーは違った。全員が同じ闘志で試合に臨んだ。監督のコンテもファールの判定や追加時間に声を荒げた。勝利のみを求め、全員が死力を尽くした。その先にコンテ政権初となる対リバプール戦の勝利があった。
この試合に勝てたからといってCL出場圏内に浮上したわけではない。リバプールとスパーズの取りこぼし待ちの現状は変わらない。
しかし一筋に見えた希望の光がほんの少し大きくなった。今季は残り2節とFA杯決勝が待つ。
この日見せたパフォーマンスを続けていれば必ずどんな相手にだって勝てる。そして何かが起こるのではないか。そんな期待を抱かずにはいられない。
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