ベルギー、露骨な課題の裏にある真の問題

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※本ブログは2018年7月5日にはてなブログに投稿されたものです

こんにちは。サッカーを見るのに慣れてしまい、W杯がないと落ち着かなくなった私です。

さてイングランドvsコロンビアの一戦を終え決勝トーナメント1回戦の全日程が終了。優勝候補スペインやリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドの現世界最高の2人が早々に消えるなど波乱に満ちた1回戦でした。

我らが日本代表もベスト8をかけ世界3位の強豪ベルギーと激突。惜しくも敗れましたが、2ゴールを奪うなど健闘しました。

今回なぜベルギー相手にあと一歩のところまで渡り合えたのか、ベルギーの問題点を考えます。Twitter(@chelsea_bluuues)では何回か言ってるんですが、そのまとめ的な感じです。

なお今回ベルギー寄りです。悪しからず。

アンバランスなスタメン

ロベルト・マルティネス率いるベルギーが世界屈指のスター軍団であることは言うまでもないが、それをどう配置するかは指揮官の役目。マルティネスは3-4-3をチョイス。GSの3試合もこれで戦い、3連勝を飾った。

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GS初戦パナマ戦のスタメン。負傷のコンパニに代わりボヤタを起用

とはいえ相手は実力的に大きく落ちるパナマ、チュニジアと控え同士の激突になったイングランド。その中ですらやや危ういシーンもあり、このフォーメーションには批判的な見方が強かった。

この布陣に帰着したのは1年前に遡る。

実は以前3バック(3-5-2)を採用していた時はトップ下で司令塔のケヴィン・デ・ブライネが「今のフォーメーションは守備的で微妙」と批判するほどだった。主力をそれなりに並べた布陣でメキシコ相手に3点を奪われ、ドローに終わった親善試合直後の発言。タレントの量、質に比べやっているサッカーの内容は低いとベルギーの心臓は評したのだ。

デ・ブライネの批判を受けたからか、彼自身も不満だったか、マルティネスは「攻撃は最大の防御」と言わんばかりに当時トップ下のデ・ブライネをボランチに下げ、WBに本来ウイングのヤニック・カラスコを固定しロシアW杯に乗り込んだ。ほとんどスタメンはファイヤーフォーメーションと言っていいレベルだった。

ただ非常に残念なのはこれでもベルギーのポテンシャルの最大値からは程遠い試合運びしかできていない。組織の成熟度の低さは常々指摘され、疎かにしている守備の穴は当然目に付いた。

ただしさすが才能の宝庫だけあり、回数こそ限られているが、時折見せる輝きの融合は本大会のGS突破をあっさりと実現させた。本気のイングランドとやり合わなかったのも良かった。

しかしそれゆえ今まで見えなかった、あるいは見ようとしていなかった脆さが日本戦では露骨に見えてしまう。

日本戦、露呈した弱点

日本戦もベルギーは3-4-2-1を採用する。お馴染みの布陣だ。

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ボヤタの位置にコンパニが復帰。

GSの戦いぶりがそこまで組織的に圧倒的でなかったことからも、異論が噴出。

「4-2-3-1で良くないか」

「この布陣は助かる」

「ムサ・デンベレがいないのは大きい」

といった意見が相次いだ。

どうやらツイッタラーには4-2-3-1が人気だったようで、ちなみに私もそうであればかなり厳しい戦いになると予想していた。コンパニに比べれば数段落ちるボヤタをサポートするために3バックにしているのかという読みもあったが、真顔でコンパニを復帰させていたので、その可能性はあっさり潰えた。

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普通に強い。バランスも上々に見える。

ベルギーの弱点① 両WBの裏

ベルギーの、と言いつつWBの裏というのは3バックの弱点の一つである。ところがベルギーはそれに加えWB担当者がFWが本職のカラスコと守備にはやや難のあるトーマス・ムニエである。確かに両選手は攻撃力が高いが、それは守備力の低さとの引き換えだ。

実際ベルギーの布陣はそこをカバーしようとバランスが悪くなっている。

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試合開始後の攻撃時基本布陣。特にカラスコを上げたがる。

カラスコを上げることで空いた大きなスペースを埋めようとヤン・ヴェルトンゲンが左に大きく寄る。一応常識的なポジショニングをムニエがとっていたことから、Twitterでは「これ4バックか?」という声も散見された。

守備時には一応カラスコも戻るのだが単純な守備経験の少なさからクリアミスなども目立った。

また逆サイドのムニエがバランスをとって残る、ということもなく平気で飛び出していくのでムニエサイドの乾貴士は比較的簡単に受けられた。

さらにカラスコの後ろのヴェルトンゲンはSBもできる程総合力が高く、スピードやテクニックに優れている。そこでかなり前に出て潰したがり、それが効果的なシーンもあったのだが、一歩間違えれば後ろはスッカスカである。

そこをつかれたのが後半早々の原口元気の先制点だ。大きく空いたスペースに乾からボールを受けた柴崎岳がギリギリのスルーパス。思わず足を伸ばしたヴェルトンゲンだったがカットしきれない。届いたボールと共に原口がエリア内に侵入し右足のシュートで名手ティポー・クルトワを破った。

原口のプレーも素晴らしかったが、ベルギーの拙さも同時に目につく。WBのカラスコは追いかける姿すら画面に映らない。またシュートを打たれる可能性がある場所に侵入されているにもかかわらず、マークはカットしそこない後手に回ったヴェルトンゲンだけだ。逆にいえばアンバランスさをついた見事な日本の攻撃だった。

ここで終わらせてもいいのだが、もう一つ言わねばならないのが「本当にカラスコを上げて効果的なオフェンスが出来ているのか」ということである。

カラスコは両足遜色なく使える選手だが得意技はカットインからのシュートだ。その姿はカラスコの前に立つエデン・アザールとあまりにも似通いすぎている。それならばアザールに任せた方が良い。

右サイドで作って左のカラスコがフィニッシュ、という形もあるのだがそれならばドリブラーを置く必要はない。また右足に自信があるのか、人を集めた側である右に持ち替えて時間がかかり、チャンスをフイにすることもある。

加えて中に入りたがるため帰陣も遅くなる。アザールと被り、バイタルでやや手詰まりな状態を作り出す一因にもなっている。

おそらく攻撃もできる左利きがいないためカラスコを起用しているのだろうが、それがどこまで効果的かははっきり言って疑問である。

次戦はメキシコ相手に圧巻のアシストを見せたウィリアン、そしてそのアシストからゴールを奪ったネイマールがサイドで牙を剥く。世界最高峰のウイングを擁し、カウンターの質でもはるかに日本を上回るブラジルを相手に、今のままでは止めるビジョンが見えない。

ベルギーの弱点② ボランチの補完性

デ・ブライネは世界最高クラスのMFであり、その創造力が発揮されれば敵陣は一瞬で崩壊する…のだが完全に使い方を間違えてるのがベルギーである。

何が問題かというと隣でダブルボランチを組むアクセル・ヴィツェルとの補完性である。

ボランチというのは一瞬のきらめきが求められる攻撃陣と違い90分通じて攻守に、特に守備的MFとの別称もあるように守備に重きを置かねばならない。

したがってデ・ブライネには守備求められるがもともと2列目、所属のマンチェスターシティでは2.5列目で後ろにはアンカーのフェルナンジーニョがいる。

デ・ブライネも献身的な守備をしてくれる選手だが、それは90分通じてクオリティ高い守りができるというわけではなく、例えるなら単純な守備能力より運動量や献身性で守る原口元気のディフェンスに近い。

ただデ・ブライネの守備力自体は別に問題はなく、ダブルボランチの中でも攻守の区別をつけるチームは少なくない。日本なら柴崎岳や遠藤保仁がより攻撃的なタスクを担い、長谷部誠が少し引く、といった噛み合わせだ。

問題はコンビのヴィツェルだ。彼はボックストゥボックスらしく、総合力が高いプレーヤーだ。様々なところに顔を出せる選手だが、デ・ブライネとは相性が良くない。

当然攻撃的役割をデ・ブライネに任せたいがヴィツェルも前へ前へと追いかけていってしまうのでバランスは絶望的だ。さらに総合力が高いというのは特筆すべきほどの守備力がないことも意味する。バランサーとしては良いが、守備職人ではない。

デ・ブライネを本当にボランチに置くなら相方は中盤に鎮座してくれるウィリアム・カルバーリョ(ポルトガル)のような選手がありがたい。または規格外の運動量を持つエンゴロ・カンテ(フランス)ならまだ決定的な破綻を防げるか。

ダブルボランチに安定感がない以上試合中何度もバイタルエリアがガラ空きになる現象が起きた。

それを生かしたのが日本の2点目、乾貴士のゴラッソだ。このシーンではバイタルでボールを持ちながら完全にヴィツェルは遅れ、デ・ブライネはボールにアタックすらできていない。乾のシュートも見事であったが、乾につないだ香川でさえも危険位置であっさり前を向いている。同時に2人もバイタルで逃すなどありえない怠慢だ。

このこと自体も問題なのだが、真の問題はここまで多くの犠牲を払っているにもかかわらず、それに見合う対価を得られていない点である。

デ・ブライネは確かに創造力ある選手だが、彼の真価は危険位置の把握とそこに送り込める技術が伴う両足、そして放たれる中距離パスである。

先に述べたようにヴィツェルは総合力が高いが、それゆえの突出した武器のなさは攻撃力にも当てはまる。前への意識の高さと合わさってビルドアップのサポートにくる場面が少ない。

またデ・ブライネのパス能力への信頼もあるのだろう。

そこでデ・ブライネがビルドアップを一任されるわけだが当然マークも厳しく、またシャビ・アロンソやアンドレア・ピルロのように一発で打開するロングパスを出すタイプでもない。

最もベルギーでパス能力があるからこそ、その能力を真に発揮できないポジションに追いやられているというジレンマが起きている。敵にとってはパナマ戦でルカクのゴールをアシストしたように、バイタルやエリア前で持たせることが最も脅威であり、CBの前ではその存在も半減している。

次戦のブラジルには攻撃的なインサイドハーフがいる。特に今大会好調のフィリペ・コウチーニョは乾が決めたような左45°から、巻いてファーサイドを撃ち抜くのを十八番中の十八番にしている。既にスイスがこれの餌食になっており、フィーリングは上々だろう。今のままではいいカモとしか言えない。

ベルギーはブラジルに勝てるのか

日本戦ではそれ以外にも不安要素が散見された。コンパニはまだ本調子には程遠いのか大迫勇也に何度もポストプレーを許し(もっともこの試合の大迫のパフォーマンスが素晴らしかったのも事実だ)、粘り強く食らいついた吉田麻也と昌子源の前にエースのロメウ・ルカクは沈黙した。ヴェルトンゲンのラッキーゴールがなければ大敗の記憶と共に帰路についていてもおかしくなかった。

とはいえ勝ったのはベルギーで、その事実は変わらない。弱点と同時にストロングポイントも際立った。

セットプレーは特に消耗した後半に効果的だった。長身選手が多く、キッカーの質も水準以上のため、簡単に距離の出せるクリアができない。後半はそのセカンドボールを拾い続けたことがヴェルトンゲンとフェライニのゴールにつながった。

またこれまで2人で常に見ていたアザールがこの試合初めて1対1になったのがフェライニにアシストのクロスを送る直前であり、少ないチャンスを確実にものにする力もさすがだ。

バチュアイ、フェライニ、シャドリ、ヤヌザイらベンチには一癖も二癖もある控えメンバーがおり、特に今述べた選手らは出場機会が限られながらも得点を奪っており頼もしい。

そして何より最後のカウンター。フィジカル重視のプレミアリーグでも安定したハイボール処理を見せるクルトワがキャッチするとデ・ブライネにパス。一気に加速したデ・ブライネが展開、ムニエのクロスをルカクがスルーすると走り込んでいたシャドリが流し込んだ。GKからワールドクラスのカウンターを見せた。

余談ではあるがデ・ブライネの爆走のシーンから危険な匂いを感じ取ったプレミアサポーターは多かったようだ。

2点差をひっくり返した勢いそのままに逆転したのはさすがである。勝負所でギアを上げたのは才能のみに頼らなくなったチームの表れのようにも思える。

ただし次は並の相手ではない。その個人能力もさることながら、勝者のメンタリティや狡猾な試合運びでは一枚も二枚も上のブラジルだ。ネイマールら攻撃陣も好調で、守備も大崩れが見られない。「事実上の決勝戦」との声すらある。

はっきり言うとタレントでは互角以上のベルギーだが今あげたポイントを改善しないまま行けば負ける可能性は極めて高いのではないか。誤解を恐れずに言えば「日本程度に」接戦を演じている現状ではブラジル相手に何失点してもおかしくない。

最後に

などと厳しいことを言ったがそれも好試合を期待する心の裏返しである。特にプレミアリーグファンとして、まさにプレミアリーグオールスターと呼ぶにふさわしいベルギー代表は応援したい。

次戦マルティネスがどういう布陣を敷いてくるかはわからない。唯一わかるのはもしも日本戦と同じ3-4-2-1で突っ込んできた場合、Twitter上に絶望的な雰囲気が広がるのは間違いないことである。

〜おしまい〜

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